株式会社かわでん(TSE: 6648)

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株式会社かわでん(TSE: 6648)

ー EV/EBIT 約1倍、ただし対売上在庫高増加による割安感消失リスクも ー

かわでんの決算資料を見ると、2023年3月期第2四半期末時点で現金が79億円、借入金と退職関係の引当金の合計が20億円となっている。仮に標準的な売り上げの5%程が業務に必要な現金の額だとするとその額は10億円ほどになるので、ネットキャッシュはおよそ50億円と計算できる。これを、自己株を除く発行済株式総数の320万株で割ると、一株あたりネットキャッシュは¥1,560円だ。

これを執筆している現在の同社株式株価は1,800円。よって、この株価のうち87%近くがネットキャッシュの価値で構成されていると言える。

残りの13%、一株あたり240円が同社の稼ぐ力の評価ということになるが、これは妥当だろうか?

同社は2005年から2022年まで、サプライチェーンの混乱による部材調達難の影響を受けた2022年の第一四半期を除いて一貫して黒字を計上しており、同期間の平均営業利益は11.7億円。これに35%の税率を適用すれば、同社の平均的な税引後利益はおよ7億円、一株あたりで言えば218円となる。

EV/EBIT倍率がほぼ1倍で取引されている同社株式は割安に思えるが、しかし一見割安に見えても実はそうではない「バリュートラップ」も多く存在する。そこでもう少し詳しく調べてみたい。

ビジネス

株式会社かわでんは日本中のビルや工場などで使われる配電盤、制御盤、分電盤などを製作している。基本的に全ての建物は発電所から供給された高圧の電気を受け取り、低圧化し、そして各電気機器へと分配する仕組みを備えているが、同社の製品はこの仕組みを作る上で絶対に必要となる。そのため最終需要の裾野は広い。

同社の作る配電制御システム機器は大きく標準品とカスタム品に分けられる。標準品とは文字通り標準化されたものであり、購入者は既存の製品から自分の用途にあったものを選ぶ。標準品は主に一般家庭や小・中規模マンションで使用される比較的低圧のものが多い。この分野では日東工業が大きなシェアを持っている。

これに対し、カスタム品は最終顧客の要望に応じて製作がなされる。カスタム品が使われるのは大規模マンション、中・大規模オフィスビル、病院、商業施設、中・大規模工場、学校、ホテルなどだ。これらの建物は停電が許されなかったり、空間的制約があったり、また騒音や振動を嫌ったりと言う性質がある。標準品でこれらの要望を満たすことができない場合、カスタム品が必要となる。

かわでん資料によると、カスタム品の市場はおよそ1000億円と見積もられており、同社はその中で19%のシェアを持っている(2019年)。下請けも入れれば同市場にはおよそ2000社もの企業が属しているが、その多くは中小事業者であり、上位10社が市場の7割を占めている。

参入企業の多さからも察せられる通り、配電制御設備は差別化の難しいコモディティ製品だ。かわでんは三菱電機や富士電機といった電気機器メーカーの部品をキュービクルと言う金属製の箱に組み入れて顧客に出荷しているが、納入先からすればどの会社が組み立てても受け取る価値はさして変わらない。

製品自体はコモディティだが、かわでんは納期に関して一定の優位性を持っている印象を受ける。キュービクルの塗装は外注される事が多いそうだが、かわでんは自社において塗装も行っているため、外注を利用する企業に比べればより短期間で完成品を納めることが可能だろう。

そのような優位性からか、同社のマーケットシェアは拡大している。同社の資料によると、カスタム品市場の規模は2007年から2019年にかけて1,000億円と変化がないが、同社のシェアは14%から19%に上昇しているという。

これは労働力不足や、経営者、従業員の高齢化などの理由により既存事業者が退場していったためと思われる。経済産業省「工業統計表産業別統計表」によると、2007年の盤メーカーは3,058社、従業員は103,753人であったが、2018年にはこれが2,214社、80,420人にまで減少している。これは標準品も含めた盤メーカーの統計だが、基本的な傾向はカスタム品も同様だろう。事業者数の減少は今後も継続すると思われ、そうすれば残存者であるかわでんのシェアは少しづつ上昇していくだろう。

次にかわでんの売り上げ構成について見てみる。同社の売り上げは全てが「盤」の製作販売によるものだが、新築の建物に据え付けられる「新規売上」と、既存の建物の更新需要による「リニューアル売上」の2種類に分類する事ができる。

リニューアル売上の規模については2013年から2019年までのデータしか公表されていないが、それによると70億円程度の売上が継続的に発生している。同社は安定的な収益源となるリニューアル案件比率を高めていきたいそうだ。

日本配電制御システム工業会は、15年から20年に一度の配電盤類更新を勧めている。仮にビルなどの寿命が50年から60年だとすると、そのライフサイクルを通じて2、3度の配電盤類更新が発生する事になる。この配電盤類の更新回数を2.5回とすると、一つのビルからかわでんが収益を得られる機会は、一度の新規販売と2.5回のリニューアル販売という事になる。よって、件数ベースで見れば、同社の売上は28%が新規から(1 / (1 + 2.5) = 28%)、72%がリニューアルから(2.5 / (1 + 2.5) = 72%)と推測する事ができる。

一方、売上金額ベースで見ると、新規とリニューアルの比率はおよそ12:7だ。これを件数の比率と合わせて考えれば、新規とリニューアルの単価の比率は4.3:1となる。つまり、一つの建物に配電制御システムを納入する場合、新規売上はリニューアル売上の4.3倍の金額になる、という事だ。

利益面ではどうか。総売上に対するリニューアル売上の比率と粗利率の散布図を描いてみると、両者は反比例する傾向が確認できる。これはリニューアル売上の割合が増えるほど粗利率が低下するという事なので、新規の方が利益率が高い事を示唆している。

それでも会社がリニューアルの割合を増やそうとしているのは、瞬間風速的な利益の大きさよりも安定を重視しているという事だろう。

続いて、同社が一年あたりにビル(や工場)何棟分の製品を生産、販売しているのかを推定し、最終納入先の建物一棟が同社の売上に与えるインパクト、そして最終納入先の総施工費に占める配電盤類のウェイトについて検討してみたい。

まず、同社製品の対象となる建物について、そのストック数を推定してみる。推定値は統計情報のほか、ある程度恣意的な勘に頼った部分もあるが、まるっきり的外れな数値ではないと思う。

オフィスビル                                    11,000棟

病院(病床100以上) 5,000棟

大規模マンション(100戸以上) 3,000棟

大規模商業施設 1,500棟

大規模工場 2,000棟

大学建物(大規模) 2,300棟

ホテル(100室以上) 4,500棟

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合計       約29,000棟

これらが60年に一度建て替えられるとすると、年間では480棟が建て替えられる事になる。また、配電盤類の更新が60年間に2.5回発生するとすれば、年間の更新需要は1,200件となる。

業界の規模は1,000億円というかわでんによる見積もりと、新規案件の売上単価がリニューアル案件の4.3倍という数字を使うと、新規案件の一棟あたり単価は1.3億円、リニューアル案件のそれは3,100万円と計算できる。

かわでんのシェアが同市場の2割であるとすると、かわでんの売上は次のようにまとめる事ができる。


ボリューム単価(1棟あたり)
新規向け100棟分1.3億円
リニューアル向け240棟分3,100万円

ちなみに、山形にあるかわでん本社の新塗装工場では、1日に配電盤11面、制御盤、分電盤10面が製作できるそうだが、ビルなどでは各階に分電盤が一面づつ、そして容量の規模などによって配電盤が数面から十数面ある事が一般的なようだ。そうであれば、同工場は1日に1棟分のシステムを作れるキャパシティを備えていると考えることができる。なお、筆者はこの分野の素人なので、これについて間違いがあれば訂正していただきたい。ちなみに「面」とは、変圧器などや配線を収納するキュービクルという金属箱の数を数える単位。

同社は九州にも工場を保有しており、そこの従業員数は山形工場のおよそ1/3だ。生産能力と従業員数が比例すると仮定すると、九州工場での生産能力は配電盤が1日あたり3.6面ほど、制御盤/分電盤が3.3面ほどだと計算できる。

残業も勘案した場合の一年あたりの実稼働日数を310日程、閑散期を含めた年間での稼働率を8割とすると、会社全体としての年間生産能力は配電盤が3,600面、制御盤/分電盤が3,300面だ。

これを上の表のボーリュームで割ると、1棟あたりの配電盤の数は約10面、1棟あたりの階数は約10階となる。かわでん製品の最終納入先建物が大規模である事を考えれば妥当な数字に思えるので、ここまでの推定は正確ではないにせよ、そこまで現実からかけ離れたものでもないのではないだろうか。

以上の推定が正しく、また同社の標準的な売上が190億円ほどだとすれば、最終納入先の増減が売上高に及ぼす影響は、新規の場合一棟あたり0.7%、リニューアルの場合は一棟あたり0.16%となる。

次に、施主が支払う建設費のうち、変電盤類がどれほどのウェイトを占めるかについて考える。施主にとってのコストが取るに足らないものであるほど、それの売り手としては値上げが容易になるので、このウェイトが低いほどかわでんにとっては良い。

かわでんの最大顧客であるきんでんは電気設備工事などを行う会社であるが、その有価証券報告書を見ると、原材料費は売上高のおよそ29%ほどだ。また、同業者であり、同じくかんでんの得意先である関電工について見てみると、原材料費の対売上高比率は24%となっている。さらに他の同業者についても調べると、四電工は25%、九電工は25%、中電工は28%となっている。これらの平均を取ると26%だ。

そして社団法人建築業協会関西支部によると、一般的なビルなどの建築費に占める電気設備関係の費用は、およそ14%ほど出そうだ。これがきんでんなど電設業者の売上に相当するとすると、施主にとっての電気設備の原材料コストは建築費の3.6%ほどとなる(14% x 26% = 3.6%)。さらに、この原材料には配電盤類以外にもケーブルや照明などあらゆるものが含まれている。そこで、仮に原材料コストのうち半分が配電盤類であるとすると、施主にとって配電盤類は総建築費の2%ほどに相当すると推定できる。よって、仮にきんでんや関電工といった電設業者が、かわでんより1割安い他社の配電盤類を採用すれば、施主に対して0.2%のコスト削減を提案できる事になる。

しかし、これまでかわでんの製品を採用して大きなトラブルなく事業を行なってきた電設業者が、0.2%のコストダウンを提案するために盤の調達先を変更する事はあるだろうか。

あるかも知れない。実際、電設業者はいくつかの盤メーカーと取引をしており、どのサプライヤーの製品も同じく優れたものであれば、調達先をA社からB社に乗り換える事で電設業社が抱えるリスクは低い。どこまでいっても同社の扱う製品はコモディティであり、価格競争は避けられない。施主にとってのコスト的なウェイトは低いが、だからといって値上げが容易なわけではなさそうだ。

次にマクロ的な事になるが、今後のビル、工場、病院といった非住宅の建設需要について考えてみる。今後数十年日本の人口は減少していくので、それに応じて国内の建物数も減少していきそうなものだが、実際はもう少し複雑だ。

例えば子供が減れば学校は減っていくが、老人の増加により病院や介護施設は増えていく。製造業が国内へ回帰すれば工場が増える。企業などがクラウド化を進めればデータセンターが増加する。Eコマースが拡大すれば物流施設が増える。

このように、大型の非住宅建設投資がどうなるかは、単なる人口の増減だけではなく、人口構成、産業構造、テクノロジー、消費スタイルなどの変化といった要因が強く関わってくる。

筆者はこれらについて全く専門的な知識を持っていないので、ボトムアップで未来の非住宅建設投資がどうなるかを予測することはしないが、今後40年間の人口減少率が年間1%未満になるであろう事、そして上に列挙したような様々な変化のトレンドが今後もしばらく継続する事を勘案すれば、非住宅建設投資が今後大幅に減少していくと考える方が難しく感じる。

確かに、過去40年ほどは一貫して金利が下落傾向にあり、建設などの大型投資がやりやすい環境であった。今後金利が上昇に転じるとすれば、建設投資には抑制的な力が働くかもしれない。しかし、過去の金利と非住宅建設投資の推移を見比べると、実は両者の間にあまり相関がないことに気づく(むしろ企業の業績との相関が強そうだ)。そこで、個人的には今後の非住宅建設投資は過去10年と同様になるというシナリオを基本線とするのが妥当ではないかと思う。

この基本線を中心に、同社の今後10年の業績、そしてそれを受けた株価、期待される年率リターンなどについて、悲観的なケース、楽観的なケース、そしてその中間のケースの3つを想定して考えてみる。

かわでんの業績はリーマンショック後の2010年から2013年にかけてが過去17年間で最も悪い時期であった。「悲観的なケース」では、この4年間の平均営業利益である5億円が今後10年間継続するものとする。

これに対し、最も業績が良かったのは2015年から2019年までで、この間の平均営業利益は17億円にのぼる。「楽観的なケース」では、このような業績が今後も継続するものとする。

そしてこれらの中間、営業利益11億円が継続する場合を「中間のケース」とする(ちなみに、2005年から2022年までの平均営業利益は11.7億円)。

これら3つのケースそれぞれについて、今後10年間のネットキャッシュ増加をシミュレーションし、それに適切なEVを足すことで10年後の時価総額を推定する。そしてそれと現在の時価総額を比べて、どれほどの年率リターンがが期待できるかを計算する。なお、どのケースにおいても、同社の売上と利益は一切成長しないものと仮定する。

ネットキャッシュの変化をシミュレーションするにあたり、以下の前提を置く。

  • 税率は35%とする。
  • 税引後利益とFCFは同額であるとする。
  • 配当金は2.5億円とする。

まずスタートとなるネットキャッシュは、直近の四半期末の数字である50億円を用いる。ネットキャッシュの年間増加額は、悲観的なケース、中間のケース、楽観的なケースについて、それぞれ0.75億円、4.65億円、そして8.55億円となる(FCFから2.5億円の配当金を除いた額)。このペースでネットキャッシュが増加すると、10年後のネットキャッシュは次のようになる。


10年後のネットキャッシュ
悲観的57億円
中間96億円
楽観的135億円

次に10年後のEVを予測する。

かわでんの過去のEV/EBIT倍率がどうだったかというと、2008年以前は日本株が全体的にオーバーバリューされていた事もありEV/EBITが10倍以上となる年もあったが、リーマンショック以降の中央値は約1.5倍となっている。10年後のEV/EBIT倍率もこれと同じだとすると、その時点でのEVは以下のようになる。


10年後のEV(EV/EBIT = 1.5)
悲観的7.5億円
中間16.5億円
楽観的25.5億円

これを先ほど求めた10年後のネットキャッシュと足し合わせると、10年後の時価総額がわかる。そのようにして求めた10年後の時価総額と、それを320万株で割って計算した株価をまとめたのが下の表だ。


10年後の時価総額10年後の株価
悲観的64.5億円2,015円
中間112.5億円3,515円
楽観的160.5億円5,015円

現在の株価1,800円と10年後の期待株価から求めた年率リターンは下の表の通り。


年率リターン(キャピタルゲイン)
悲観的1.1%
中間6.9%
楽観的10.7%

これに配当利回りを加える。2.5億円の配当金支払いは一株あたり約80円であり、利回りとしては約4.4%、税引後では約3.5%となるので、トータルでのリターンは悲観的なケースで4.6%、中間のケースで10.4%、そして楽観的なケースで14.2%となる。

期待リターンの幅が大きいが、これは同社のような景気循環に敏感な銘柄の宿命であり、EV/EBIT倍率が低位である理由の一つであると言える。

同社が大規模な自己株買いをすれば期待リターンは大きくなるが、それを期待するだけの材料もないため、ここではそのようなケースは想定しない。

最後に、懸念事項について触れておく。

同社はトヨタ式のJIT(ジャスト・イン・タイム)システムを採用して操業しているが、この在庫が増える可能性もある。

コロナ禍に端を発したサプライチェーンの混乱により多くの製造業社は部材の調達難に陥ったが、これを受けて製造業各社では手元在庫を厚くする動きが見られる。かわでんもJIT(ジャスト・イン・タイム)システムを採用し、在庫をあまり持たない経営をしているが、仮にこれが見直されれば売上高に対する棚卸資産が増加し、キャッシュの減少につながる可能性がある。

太平電気(株)の仁科典正氏の記事によると、かわでんの在庫は一時期は1ヶ月分が取り置かれていたが、2009年時点では2日分にまで減らされたそうだ。今後手元在庫が積み増されるのか、だとしたらどれほど増えるのかはわからない。適当に数字を選んで、仮に現在の3倍の材料が確保されるとすると、その金額は19億円ほどになる。これは現在の金額よりも13億円ほど多く、一株あたりに換算すると406円となり、インパクトは比較的大きい。

株式保有状況:

記事執筆時点において筆者は同社株式を保有していません。ただし、今後保有する可能性は排除しません。

免責事項:
この記事はビジネス分析、財務分析、バリュー投資の「やり方」に関する情報提供が目的であり、投資アドバイスではありません。数字をはじめとする記事中の内容が正しい保証はありません。また、もしも株式や会社の価値について筆者が言及している箇所があれば、それは筆者の主観によるもので、これも正しい価値である保証は全くありません。当記事の内容を参考にして行われた投資による損失について、筆者は一切責任を負わないものとします。

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