ザ・ゲーム

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ザ・ゲーム

The Game という本がある。ニューヨークタイムズなどで記者をしていたNeil Straussという人が書いた本で、彼がある記事を執筆中に偶然知ったピックアップ・アーティスト(ナンパ師)の養成講座に入り、カリスマ的な指導者の下で女性を意のままに操る術を学んでいく過程を描いたノンフィクション本だ。

奥手だった著者がピックアップ・アーティストに変貌していく様は非常におもしろいのだが、同時に彼の実践する心理学的な人身操作術は非常に強力なものだけに、無防備な女性が容易く欲望の餌食にされていくしていくのはあまり読んでいて心地のいいものではなかった記憶がある。

これを読んだのは15年以上前で、友人の友人に勧められたのがきっかけだ。その人物は当時イギリスから日本へ留学に来ていた男性で、学業というよりは女性の開拓に日夜心血を注いでいた。

オタク気質の自分とは全く波長が合わなかったので一緒に遊びに出かける事は殆どなかったが、友人も交えて飲んでいる時に彼が何気なく言った一言が今でも強く印象に残っている。

「常に3人はターゲットを持っていないとだめだ」

たった一人の女性に対してアプローチをしていると、その女性を落とそうと必死になってしまう。常に3人のターゲットをキープしておけば、一人がダメならまた次がある、という余裕が生まれ、結果的にそれが女性には堪らなく魅力的に映る。そのため、一人に集中するのではなく常に3人の女性に同時並行でアプローチする事で、全体としての成功率を上げる事ができるらしい。

これは自分の異性関係には何の役にも立たなかったのだが、株式投資をするにあたってはとても有益なアドバイスになっている。

流動性の低い小型株では特にそうだが、見込みのありそうな株式について何週間、何ヶ月と調べた挙句、それを自分の望む価格で買えない事がある。その価格が自分の思う適正価格よりも遥かに高ければ諦めもつくのだが、わずか数%高い場合などはついつい自分の判断した価値の方を価格に合わせたい衝動に駆られてしまう。

数年前にかなり深掘りして調べた会社があるのだが、その会社の株式を購入する際、まさにこのエラーを犯してしまった。

その会社に関するあらゆる資料に目を通し、様々な場所に足を運び、膨大な時間を費やして調べ上げた会社の株価が、自分の思う適正価格よりも少しだけ高い。いずれ下がってくるのを期待して頻繁に株価を確認しても一向に下がらず、むしろ毎日少しづつ上昇し続けている。そして何日か我慢した後、ついに辛抱が堪らなくなり、自分が想定したその会社の期待成長率などを調整する事でその株への投資を正当化してしまった。

その後株価は下落を始めたのだが、調査に膨大な時間と労力を費やした自分の判断が間違っていると認める事ができず、売り時を見誤ってしまった。この様に購入時と売却時の両方でエラーを犯したので当然だが、その株への投資は散々な結果となった。

今思えば、なぜその会社にそこまでのめり込んだのかわからないのだが、きっと熱に浮かされていたのだろう。株式投資にまつわる格言では結婚や恋愛を比喩として使ったものが多いが、興奮、陶酔、欲望、そして損失の恐怖と言った要素が絡む両者には似たところが多い。そのため、株式投資においてふとした拍子に冷静な頭を失ってしまう事態はいつ誰の身にも起こりうる。

そうならないためには前出のピックアップ・アーティストの様な冷徹な態度が有効だ。できるだけ多くの会社を調べて投資候補を常に複数抱えている状態にしておけば、自分の分析結果を曲げてまでただ一つの銘柄を執拗に追いかける様な事態にはなりにくくなるだろう。

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